「黄昏の空が赤く染まるころ」



黄昏の空が赤く染まるころ、一人の老人が静かに歩いていた。彼の名は佐々木誠。年齢は既に80を超え、体は以前ほど自由には動かなくなっていたが、今日はどうしても訪れたい場所があった。

その場所は、かつて彼が愛した妻、志乃と何度も訪れた思い出の場所だった。志乃は数年前に他界し、誠はそれ以来、深い孤独の中に生きていた。彼にとって、志乃は単なる伴侶ではなく、人生そのものだった。彼女と過ごした日々が、彼の人生に意味を与え、喜びをもたらしてくれた。

志乃との出会いは、この場所でのことだった。若い頃、二人はよく手をつないでこの公園を歩き、将来の夢や希望を語り合った。子どもたちが遊ぶ姿や、木々のざわめきを聞きながら、二人はどこか永遠に続く時間の中にいるかのような感覚を味わっていた。

しかし、今やその公園も少しずつ変わり、昔とは違う風景が広がっていた。それでも、木々のざわめきや、夕暮れ時の風の香りだけは変わらず、誠の心に深くしみ込んでくる。彼は公園のベンチに腰を下ろし、懐から古びた財布を取り出した。中には、志乃の写真が一枚だけ大切に収められていた。

「志乃…」彼はその写真をじっと見つめ、懐かしさと共に、込み上げる感情を抑えきれなくなっていた。彼女の笑顔がそこにあり、まるで今にも話しかけてくるかのようだった。誠は、涙が頬を伝うのを感じたが、拭うこともせず、ただ静かにその場に座り続けた。

そのとき、ふと視線を上げると、少し離れた場所に若いカップルが並んで座っているのが目に入った。二人は笑顔を浮かべ、何かを話しながら、時折手を取り合っていた。その姿は、まるでかつての自分たちのようだった。誠は彼らを見つめながら、若かった頃の自分と志乃を思い出した。あの頃、彼らもこのカップルのように、未来を夢見、希望に満ちていた。

だが、時は無情にも過ぎ去り、今や誠は一人取り残されていた。彼の中で静かに広がっていくのは、喪失感と、人生の終わりが近づいていることへの実感だった。

「もう、そう長くはないんだろうな…」誠は自分にそう語りかけた。志乃がいないこの世界で、自分がどうやって人生の最後を迎えるべきか、彼はこれまで何度も考えてきた。だが、答えはまだ見つかっていなかった。

若い頃、誠は死について考えることはほとんどなかった。人生は無限に続くように思えたし、志乃と一緒にいられる限り、老いも死も遠い未来の話だった。しかし、彼女を失ってからというもの、その未来は現実のものとなり、彼は日に日に自分の終わりについて思いを巡らせるようになった。

「志乃はどう思っているだろうか…」彼は再び写真を見つめながら、問いかけた。志乃が亡くなる直前、彼女は静かに微笑んでいた。「大丈夫、私はいつもあなたのそばにいるから」と彼女は言っていたが、その言葉は今でも誠の心に残っていた。だが、それでも彼は孤独を感じずにはいられなかった。

若いカップルが立ち上がり、楽しげに歩き出すのを見送りながら、誠は一つの考えにたどり着いた。彼は、自分もまたいつか志乃と同じ場所へ旅立つのだろう。そして、そのときが来たら、彼女のそばで再び笑顔になれるのだろうか。

誠は深く息を吸い込み、静かに立ち上がった。志乃の写真を財布に戻し、空を見上げると、夕日が赤く燃え、空に広がっていた。彼はふと、最後の瞬間をこの場所で迎えるのも悪くないと思った。

「もう少しだけ、待っていてくれ、志乃。」彼はそうつぶやきながら、ゆっくりと足を踏み出した。

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